高倉健さんについて

今もなお、世代を超えてコアなファンに愛され続ける伝説の大スターである高倉健は、無口で無骨で、実直で義理堅く、不器用で純粋といった「昭和の男」の美学、哲学、生き様をまさに体現した俳優である。映画のレビューサイトを閲覧すると、殆どの主演作品が軒並み高評価であり、また本人を貶めるような書き込みが一切見られないことからも、今も変わらず人々に敬愛されていることが窺える。

しかし、寡黙で捉えどころのない謎めいた男よりも、理路整然と意思疎通が図れる相手のほうが良い私。そんな私個人としては、長身だが美形でもなく、話し方は渋いが声や滑舌が良い訳でもなく、どちらかと言えば地味で控えめな印象の高倉健に、人気俳優特有の華やかさ、引力、色気みたいなものを感じることがなかった。今までに見た作品では、高倉さんは喜怒哀楽を表に出さない硬派な役柄が多く、演技力や表現力についてもどうにも判断がつかない。私は高倉健さんの魅力を探求するべく、高倉健出演映画マラソンを実施することにした。

高倉さんは生涯を通して200本以上の映画に出演なさっている。彼の魅力を完全に理解するにはおよそ不十分だろうが、今回改めて鑑賞したのは以下の14本である。内田吐夢監督「飢餓海峡」(1965)、佐藤純弥監督「君よ、憤怒の河を渉れ」(1976)、山田洋次監督「幸福の黄色いハンカチ」(1977)、降旗康男監督「冬の華」(1978)、降旗康男監督「駅 Station」(1981)、森谷司郎監督「海峡」(1982)、蔵原惟繕監督「南極物語」(1983)、降旗康男監督「夜叉」(1985)、降旗康男監督「あ・うん」(1989)、リドリー・スコット監督「ブラック・レイン」(1989)、降旗康男監督「鉄道員(ぽっぽや)」(1999)、チャン・イーモウ監督「単騎、千里を走る」(2005)、降旗康男監督「あなたへ」(2012)。東映時代の任侠映画はあまり興味がないので石井輝男監督「網走番外地」(1965)のみ。

私の感想としては、最も一般的に浸透したイメージに合致していたのは「網走番外地」、そして私が最も魅力的に思えたのは「冬の華」の高倉さんである。鋭い眼光にぶっきらぼうな口調、孤独な佇まい、不器用だが正義感の強い極道者という役柄は一番ハマっているように思える。敬遠していた任侠映画をもっと見てみたくなった。

また、高倉健さんはとにかく素晴らしい作品たちに恵まれた幸運な方だと思う。上記した作品はどれも造りが骨太で内容が大変面白く、不思議な余韻を残していくものばかりで、いわゆる駄作がない。それが高倉健の成せる技であり、昭和の大スターと呼ばれる所以だとしたらやはり偉大であるとしか言いようがない。また、「喜怒哀楽を表に出さない硬派な」男たちの役だからこそ、微妙な表情の変化で心の機微を表現しなければならない難しさを思うと、やはり演技力も称賛に値するものなのだと思う。何より、「昭和の男」をひとりで背負っているかのような存在感にはさすがに求心力がある。

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